数年前、商品をダンボールに積んで、
養護学校や、老人ホームを回り、外販をしていた時期があります。
当時は、まだ宮崎市内に慣れなくて
訳の分からないまま、あちこち営業し、それ故に反省の毎日でした。
老人ホームに行くと、品物を広げるそばから
おじいちゃん、おばあちゃんが、興味津々集まって来てくれます。
昼食を済ませた職員さん達が来る頃には
ちょっとしたギャラリーが出来ていて、
「綺麗な色ね〜」「すごく柔らかい!」「面白いデザインね」
そう言い合いながら、皆さん楽しそうに見て下さいました。
そんなある日の事。
商品を撤収しようと箱にしまっていると
1人のおばあちゃんが、小さい小銭入れを手に取って離しません。
気に入ってくれたのかな?と思い、話しかけてもニコニコ笑っているだけ。
「おばあちゃん、気に入ってしまったみたいです」
職員さんに告げると
「あのおばあちゃんは、目も見えんし、耳も聞こえんのよ」
そう、教えて下さいました。
職員さんが、おばあちゃんの肩を抱いて、手にゆっくり文字を書く。
「か・わ・い・い・こ・ぜ・に・い・れ・よ」
そして、おばあちゃんは、少しの言葉と手話で返す。
それによると、昔持っていた物に手触りが似ていたのだとか。
触れた記憶が甦ったのですね。
あの時の嬉しそうな表情は、今でも忘れる事ができません。
この日の出来事は、
「バッグや小物は、外出時に使うもの」と言う
私の勝手な概念を覆す出来事でした。
質の良い素材は、手に触れるだけで心地良いものです。
写真や画面上では分からないし、
どんなに巧みな言葉で表現しても、
「触れた感覚」には適いません。
革製品に馴染みはなくても、まず、触れてみて
「指先の感覚」を楽しむ事から始めて欲しいです。
*
あのおばあちゃんの笑顔に教えられて、
九年程経ちました。
今では、外回りをしなくなりましたが、
あの頃にお世話になった、職員さん、先生方、
そして、利用者さんのご家族の方は、
今でも時々、お店に遊びに来て下さいます。
本当にありがたい事です。
たくさんの事を教えて下さり、
どんなに疲れていても、笑顔で対応して下さった皆様に
この場を借りて
「本当にありがとうございました。」
そして・・・お名前は出せませんが
天国へ逝ってしまった、あの時のおばあちゃんへ
「大切な事を教えて下さって、本当にありがとうございました。」
「大好きだよ!」